織物
フェルナンブーコ染の紬着尺「余呉紬」が届きました。
かねてから織り出しをお願いしていたものの、コロナ禍で音楽会の開催が急減したため、染料に使えるフェルナンブーコが集まらず、創作がなかなか進まなかったフェルナンブーコ染めの紬。
弊店のオーダーは、
「紺や濃グレイなどの濃地をベースに、フェルナンブーコの赤が顔を覗かせる、明るく落ち着いた布面に。」
今回も、素敵な紬を織り上げてくださいました。
照明を下げた空間では鉄御納戸色のシックな紬に。
明るい所では渋く素敵な古代紫色に映るでしょう。
この光の加減によってはっと華やかに現れる「赤」。
これがフェルナンブーコの赤の魅惑の美しさなのです。
糸の太細、フェルナンブーコ含め様々な草木の染料から頂いた色が織り成すハーモニーは、一言では表せない、滋味深い織物が生まれます。
極く細い糸で織り上げていますから、布はとても軽くてしなやか。
さらりとしつつ、紬らしい素朴な風合いも活かされた作品です。
ふわりと軽いしなやかさ、そして、糸味の良さを感じる真綿の温もりは極上の幸せ感を届けてくれることでしょう。
反巾は1尺4寸(39.5cm)ございますので、御手の長い方や男性にもお勧めです。
夢訪庵(桝蔵順彦)余呉紬(フェルナンブーコ/浅蘇芳色)の作品解説でもご紹介いたしましたが、フェルナンブーコについて、改めて記します。
フェルナンブーコについて
フェルナンブーコ(フェルナンブコ)とは「ブラジルボク」の別名、その名の通りブラジルの高木です。
材が硬く弦楽器の弓に最適な為、高級材として非常に珍重され管弦楽の世界では著名な材なのですが、今ではワシントン条約で絶滅危惧種として登録された、希少な木となっているそうです。
そのフェルナンブーコがどうして染料として着物に使われているのでしょう。
そこには出合いが繋いだ物語があったのです。
フェルナンブーコは弓材として重用される以前、同じく材から取れる赤色色素(ブラジリン)がブラジルの重要な主産品でした。
ブラジルボク(赤い木)が国名の由来にもなったほどです。
染料としても優れていることを知っているN響出身のビオラ奏者「三原征洋氏」が何とか活用出来ないかと、染織のマエストロ、夢訪庵さんに依頼したことからフェルナンブーコ染めの道が啓かれました。
弓メーカーでは、加工後に出る木くず、端材、折れた弓等を大切に保管していたのです。
本来なら廃棄処分されていてもおかしくないフェルナンブーコを保管していたメーカーさん。
染料として活かす道を考えた三原氏。
見事に染料として表舞台に引き上げ染織品へ創り上げた夢訪庵さん。
日本らしい、物を大切にする気持「モッタイナイ」精神が育んだ織物が、このフェルナンブーコです。
素敵な染織品は、拝見出来、身に纏えることだけでも嬉しく素晴らしいのですが、そのバックグラウンドを識れば、尚一層愛おしくなりますね。
そのクオリティからすれば、驚く位の良心的なお値段で届けてくださいました。