新たな感性を加えて
お母さまからお嬢さまへと譲られた黒留袖。
数ある着物の中でも、とりわけ黒留袖はご家族の歴史や想い、記念日が詰まった大切なお着物ですね。
こちらの黒留袖はお母さまがお嫁入りの時に御誂えなさったお品で、よくお召しになったそう。
大切に仕舞われていた為、特に目立つ汚れ等はないのですが、やはりところどころ傷みが見受けられるとのこと。
ご着用予定があるわけではないのですが、お母様のお品でございますから、このままではなく、出来るだけ良い状態にしてお持ちになりたいと、お手入れのご依頼を頂きました。
また、その際には、単なるお手入れのみならず、柄の色替えなども含めたリフォーム的なものも…、と黒留袖をお送り頂きました。
大切なお着物を弊店にお任せ頂き、誠に有難うございます。
お送り頂いた黒留袖を衣桁にかけ、写真を撮らせていただきました。
扇面の柄が美しい素適な古典柄の黒留袖でございますね。
ところどころ白場の汚れ(カビ)による変色や、扇面のくくりの金駒刺繍のほどけ、また、柄箔の擦れ等ございますものの、お直しすれば綺麗になるように存じました。
そして、この黒留袖を拝見いたしました時に、其々の扇面を繋ぐ紐や、霞の取り方があっても素敵では、と閃きましたので、
1. 扇面を繋ぐように刺繍で紐を入れる。
2 .横段の金彩霞を入れて、扇面を関連付ける。
この2案をご提案いたしました。
どちらも、現状の黒留袖の上品さを踏襲しつつ、より華やかで見応えのある黒留袖になるように存じます。
お選びいただいたのは、扇面を繋ぐような刺繍の紐でございました。
そういえば、お母様もいずれは刺繍をいれても、と思ってらしたとか。想いが同じで良かったです♪
扇面を繋ぐ紐の図案をご用意いたしました。
全体のバランス等をご確認いただき、ご要望を伺いつつ、進めてまいります。
紐の刺繍の構成が決まりましたら、次はお色の選択です。
尚、お母さまは、この黒留袖の中で特に気に入っているところは扇の色なのだそう。
お嬢さまも同じく、扇の色や絵はお好みなので、この色柄を引きたてながら、というご要望の元、全てのお直しを進めていますので、通常よくある金銀や紅白の紐だと紐が目立ち過ぎるように考え、思案しておりましたら、T様より、緑はどうでしょうかとご意見をいただきました。
緑の紐はなかなかございませんし、お誂えらしいご選択でらっしゃいますね。
扇面の水色と緑を足したような微妙な色合いで、全てと調和し、且つ今らしい色糸がございました。
ただ、この一色のみでは黒留袖らしい重みが若干足りないので、このお色にプラス金糸も加え、縫い分け、暈しのように彩ることによって黒留袖に相応しい品格と重み、華やかさを加えてまいります。
一部分に刺繍を施し、ご高覧いただいた後、刺繍を進めてまいります。
本組の精緻な刺繍です。
紐の先の細工も可愛いですよね。
細部にも至るまで心を込めて縫い進めてまいります。
刺繍が出来上がりました!
手前味噌ではございますが、とても綺麗な出来上がりでございます。
お誂えらしい、素晴らしい紐が縫いあがりました。
次に、扇面のお直しは、扇面の金駒刺繍のくくりを直し、変色を隠すための金彩を施し、小紋箔を新たに置く等の加工を進めてまいります。
いずれにしても、お母様そしてT様のお好みであるポイント、「扇面の中の柄やお色」は最大限このままの見え方を維持出来るよう、工夫しながら進めてまいります。
全ての加工が終わった後は、お仕立てです。
T様のご寸法に合わせて、縫わせていただきました。
完成いたしました!
素適でございますよね。
古典らしさを堪能しつつ、現代の色も取り入れた、素晴らしい黒留袖になったのではないかと存じます。
頂きましたT様のご感想でございます。
しっかり梱包いただいて、何の問題もありませんでした。
出来上がりや状況は送っていただいた画像で都度確認しておりましたが実際に見ると、もっと素敵ですね。
刺繍も素晴らしく、お願いして本当に良かったです。
近いうちに母にも見てもらうつもりです。
画像を見て大変喜んでおりましたので、楽しみにしているようです。
この度はありがとうございました。
とても満足しています。
古い着物を染め替えてコートや羽織にしたことはありましたが、こんな風に 本格的にリフォームしたことはなく、こういうのを「着物が生まれ変わる」というのでしょうか。
また何かありましたら相談させていただきます。 どうぞよろしくお願いいたします。
こちらこそ、有り難うございました!
大切なお着物をお任せ頂き、ご信頼いただけましたことに、心より感謝を申し上げます。
僅かばかりでもお役に立てたようであれば幸いです。
どうぞ今後とも弊店をよろしくお願い申し上げます。