印象を変えて
お嫁入り時にご実家が持たせてくれた黒留袖をご持参くださいました。
想いが込められたお着物ですので、出来れば着用したいと思うものの、どうしても”赤”がお気になるとのこと。
地元のお店にご相談になり、お直ししてもらったものの、
A様のご意向とは異なる仕上がりで、あまり印象は変わらなかったそう…。
そこで、改めてお直しをやり直そうと、弊店をお訊ねくださいました。
こちらがA様の黒留袖です。
松を背景に鶴が飛翔する吉祥柄は黒留袖らしい重厚な雰囲気ですね。
金と朱赤が目立つ華やかで豪華なお色合いですが、今の時代とご年齢には合わないように思います、とA様。
裾の雲取部分は、元々は描き匹田文様詰めの臙脂色に近い渋い赤色だったそう。
その部分に金の砂子を散らすお直しが施されたようですが、かえって赤が目立つ結果になったようにお見受けいたしました。
弊店がご提案いたしましたのは、松の朱赤、こちらのお直しです。
金の砂子を振るのでは無く、松全体の色調を整える方法です。
詳細なご説明になり恐縮なのですが、仕立て上がりのお着物、特に比翼付きの黒留袖は、一旦着物を解いて布表を整えないと加飾は施せないものですが、お陰様で弊店の仕事を支えて下さる金彩職人さんは、着物を解くこと無く、仕立て上がりの状態で加飾が出来る名人なのです。
着物を解くと解かないとでは、かかるご費用が大きく違ってまいります。
数色の金銀をブレンドしつつ、丁寧に加飾を施します。
出来上がりました。
鶴の体躯の白さが際立ち、印象がかなり変わってまいりました。
朱赤の松は暈かしを入れながら柔らかく丁寧に仕上げていて、初日の出のような松も素敵ですね。
裾の雲取りの華やかさも抑え、全体に落ち着いた印象になったのでは。
鶴の尾羽は紺色もあったのですね、今まで全然気が付かなかった、とA様。
ご実家の想いを受け継ぎ、新たな命を吹き込んで、代々お召しいただけるお着物は、本当に素晴らしいですね。
ご依頼いただき、誠に有り難うございました。