染帯・刺繍帯の御誂え
お誂えは、お客様と弊店(含む職人さん方)との特別な愉しみです。
お値段がお高くなるということではなく、
(値段は生地や加工の程度により決まり、誂えだから高くなることはございません。)
まず、希望通りの品が出来上がるのかどうかというご心配があろうかと存じますし、御手にしていただくまでにお時間もかかります。
ご信頼いただくに値する技量があるのかどうか。
お客様に喜んでいただく為に、常にベストを尽くしております。
ご意向をお聞かせいただいた後は弊店にお任せ、というお客様もいらっしゃいますが、出来れば、下絵を確認したり、色や柄をご検討いただいたり、あるいは、現場に出向き染めの過程をご覧いただいたり、と お誂えの過程の時間も含めてお楽しみいただきたい、そのように思っています。
この度は、お誂えでご依頼いただく事の多い刺繍の作品を、私の誂えた袋帯を元に参考までにご紹介させていただきます。
刺繍の立体感や艶感は染めでは得られない美しさがあり、格別でございますね。
あしらいではなく刺繍がメインの作品は拝見する機会も殆ど無く、ましてや、好きな柄ゆきに出会える確率は限りなく少なくなりますから、刺繍こそ誂えに相応しいのではと思います。
「藤棚」を作ることに。
昔から多く染められているモチーフですから参考図案も多く、下絵作成もスムーズに進みます。
前腹には蝶を一羽。
蝶はとても人気が高く、いろいろなパターンでお作りすることの多いモチーフです。
刺繍の色糸も決めてゆきます。
地色は薄いライラック色、濃淡で藤を刺繍。
藤棚は銀でクールに。
この度は袋帯を作りました。
染めや刺繍の帯の場合、その多くは名古屋帯でのご依頼ですが、お太鼓の張り感が頼りないとお感じになるお客様からは袋帯をご依頼いただくことがあるのです。
そこで、袋帯にしてみることに。
後述しますが、あとで名古屋帯にも変更出来るようにしています。
帯地は塩瀬ではなく、少しだけ緞子風の吹雪地紋の帯地です。
刺繍を引き立てながら、生地にも表情が生まれるようにとのセレクトです。
刺繍を挿している途中の様子です。
刺繍が出来上がりました。
藤棚にもへりに銀の刺繍を添わせ、より立体感が増していますね。
この思い通りに出来るのが、誂えの良いところなのです♪
仕入れ品にはまずあり得ない凝り方が出来るのです。
前腹のもう片側は銀の霞。これも弊店の好きなパターンかも。
単純に自身の好みで作るとすれば、ここで終了、となるのですが、刺繍の誂え見本にもなるように、との想いがあり、更に金の霞と蝶を加えてみることに。
何でも試して、やってみる訳です。
お太鼓が豪華になれば、前腹にも加えたいですよね♪
垂れ先にも柄を繋げましょう。
帯が出来上がりました。
抜け感ある元の帯もすっきりして綺麗ですが、こちらは華やか♪
銀ベース、金ベース、どちらの着物にも合いそうです。
太鼓裏にも柄を繋げます。
将来、名古屋帯に仕立て直した時には藤棚が見え、今現在の袋帯の状態では、金の野毛や箔が見えるように。
刺繍や加工の程度で、お誂えのお値段は変わりますが、誂え主が決まっているからこそ出来る、遊べるのが、誂えの素晴らしい処なのです。