地色も柄も加工を施して
お母様に買っていただいた大切な礼装着なのだけれど、今の自分の感性や好みとはちょっと違う…。
どうしよう。
箪笥を開けてみては、複雑な思いで着物を眺め、またそっと畳紙にしまい込む。
皆様にもご経験がお有りなのでは。
この度は地色を染め変え、更に柄の加工も施した付下げのリメイク例を御紹介いたします。
K様からご相談を頂戴した付下は、お着物を着始めた当時、お母様が誂えてくださったお品だそう。
綺麗な水色の上品な柄ゆきのお着物で素適でございますね。
「もちろん、それは承知の上で、今はもう着ないような気がする。」とK様。
分かります。
悪くはないのだけれど、”何となく違う”。
この”何となく違う”感覚を、具体的には、
1.地色の変更
2.柄のアレンジ
3.洒落紋
の手順で施し、K様のお好みに添うよう、リメイクさせていただきます。
1.地色の変更
地色の染め変えにあたっての原則は「今の色よりも濃い色に」。この度は紺色への染替えをご提案いたしました。紺の中でも、赤みのない紺色がK様にはお勧めです。
きりりとした紺色のお着物は知的さや優雅さも兼ね備えたお色で紋綸子地紋とも好相性。
柄部分を全て糊伏せしてから、地色を染めます。
地色が染め上がった状態の反物です。
糊が付いた状態ですから、お持ちいただくとかなり重く巻きも太いので、驚かれるかもしれません。
柄部分の伏せ、裏からご覧いただくと分かりやすいですね。
2.柄のアレンジ
地色の染め替えが終りました。次はいよいよ柄のアレンジです。
友禅で色を挿すことはなく、主に刺繍と金銀の箔遣いで仕上げてまいります。
全ての雲取り部分に金の霞を加えます。
雪輪の中の胡粉にも修正を加えて。
大人っぽさと重みが出てまいりますね。
ところどころ剥げかけていた柄の糸目くくりも、全て金を括り直して、クリアな印象に。
同時に、雪輪の金駒刺繍もやり直します。
K様曰く、しゅっ、しゅっ、と伸びた葉も好きではないとの事。
葉の全てが白でしたので、葉色をアレンジしてあげると印象も変わるのでは。
こちらも、ところどころの葉を鈍い金色にアレンジ。
3.洒落紋
御背には女紋の縫いが一つ入っていました。紋を外して、お洒落紋をお入れいたします。着物の柄をアレンジした”雲取りの蝶”のお洒落紋をご提案。
本金の線仕上げで縫い上げます。
加工が全て終わり、お仕立て上がりました。
地色が紺色に変わり、着物の趣が変わりました。
柄の加工は最小に留めつつ、刺繍で重みが加わりました。
お母さまにもご満足いただけたそうで何よりでございました。
K様、有り難うございました。