織物
糸や織りのマエストロでらっしゃる夢訪庵さん。
草木染めと手織りにこだわり、国内外からこれはと思う糸や材料を取り寄せ、染め、織り、私達にいつもワクワクを届けて下さいます。
その博識、着物愛に溢れる軽妙な語り口に時間を忘れて拝聴することもしばしば…。
今回も、素晴らしい作品を届けてくださいました。
このふわりと軽いしなやかさ、糸味の良さを感じる真綿の温もり。
包まれると幸せでしょうね。
お色は何色と表現したらよいのか本当に難しい魅力的なモーヴカラー。
トータルで表現すれば浅蘇芳色なのですが、無数の縞が浮き立つ様がとても綺麗です。
そして、何より心掴まれるのが、光の加減によってはっと華やかに現れる「赤」。
そう、これがフェルナンブーコの赤の魅惑の美しさなのです。
フェルナンブーコとは何なのか。
少し長くなりますが、ご説明させていただきます。
フェルナンブーコについて
フェルナンブーコ(フェルナンブコ)とは「ブラジルボク」の別名、その名の通りブラジルの高木です。
材が硬く弦楽器の弓に最適な為、高級材として非常に珍重され管弦楽の世界では著名な材なのですが、今ではワシントン条約で絶滅危惧種として登録された、希少な木となっているそうです。
そのフェルナンブーコがどうして染料として着物に使われているのでしょう。
そこには出合いが繋いだ物語があったのです。
フェルナンブーコは弓材として重用される以前、同じく材から取れる赤色色素(ブラジリン)がブラジルの重要な主産品でした。
ブラジルボク(赤い木)が国名の由来にもなったほどです。
染料としても優れていることを知っているN響出身のビオラ奏者「三原征洋氏」が何とか活用出来ないかと、染織のマエストロ、夢訪庵さんに依頼したことからフェルナンブーコ染めの道が啓かれました。
弓メーカーでは、加工後に出る木くず、端材、折れた弓等を大切に保管していたのです。
本来なら廃棄処分されていてもおかしくないフェルナンブーコを保管していたメーカーさん。
染料として活かす道を考えた三原氏。
見事に染料として表舞台に引き上げ染織品へ創り上げた夢訪庵さん。
日本らしい、物を大切にする気持「モッタイナイ」精神が育んだ織物が、このフェルナンブーコです。
本品は、ヴァイオリンの弓の2番目位に濃い廃材が原料だとか。
染料はこのフェルナンブーコの外、ラック、そして藍により染められました。
極く細い糸で織り上げていますから、布はとても軽くてしなやか。
さらりとしつつ、紬らしい素朴な風合いも活かされた作品です。
反巾は1尺4寸(39.5cm)ございますので、御手の長い方や男性にもお勧めです。
素敵な染織品は、拝見出来、身に纏えることだけでも嬉しく素晴らしいのですが、そのバックグラウンドを識れば、尚一層愛おしくなりますね。
そのクオリティからすれば、驚く位の良心的なお値段で届けてくださいました。