染帯・刺繍帯の御誂え
いつもお世話になっているK様。
この度、K様よりご用命いただきましたのは、福良雀の染名古屋帯。
とある雑誌をお持ち下さいまして、そこには御所解きの付下小紋に白地に福良雀柄の染帯をなさったお姿が。
こんな感じの帯があったらね、とボールを投げて下さいました。
雑誌の帯のイメージを元に、
中心の柄、福良雀は普遍的な古典の福良雀でございます。
○ 帯の地色は古代朱色、今はあまりお見受けする事がない帯の地色でございますね。
ご要望を伺いまして、頭に浮かびましたのは、”古典の可愛いらしさ”。
K様のイメージ通りに染め上がりますよう、心を込めて御調整させていただきます。
帯生地は重めの塩瀬を。塩瀬ならではの染め質感が欲しかったのです。
藤花を唐草仕様にアレンジし、藤花唐草の中心に福良雀が居るようにデザインいたします。
梅は、開いたものや蕾を型絵風に、藤唐草の周りにあしらいました。
折角のお誂え、垂れや手先にも柄を入れましょう。
横見の菊も追加して、垂れ先は春秋で。
お太鼓の柄も変更し、決まりましたのが下図の案です。
色が付いていない下絵では、出来上がりのイメージが分かり難いですね。
ましてや、この度のご用命は地色も大切なkey。
柄の一部分に彩色を施した彩図を御用意し、ご確認いただきました。
帯の地色は、参考にした朱色の帯揚げよりもっと深い朱色で。
一口に手描き友禅と申しましても技法は様々。
真糊友禅で柄の彩色から取りかかります。
福良雀の輪郭も、求める染め上がりに応じて種々に染め分けを。
例え同じ図案や下絵であったとしても、職人による技量の差、そして少しずつの創意工夫で、上がりが全く違って参りますのが手描き友禅の世界。
上手く言えないけどこの帯のほうが立体的だね、
とか、何となく迫力が違うね。
そうお感じになるのは、下絵の草稿から始まる、全ての小さな積み重ね、努力、経験の賜物なのです。
柄の彩色が終わり、
普段ご覧いただけない染色途中の景色でございますね。
K様のご要望のお色、こっくりとした深い古代朱を得る為に、引き染めを二回も繰り返し、染めていただきました。
蒸し、水洗、湯のし、の工程を経て、
最後は金彩の職人にバトンタッチ。
希望通りの染め帯と仰っていただきまして、職人も私共もほっと一安心でございます。
この度もご用命をいただきまして、誠に有り難うございました。